日本の印染

印染用語辞典
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−印染とは−

 三社祭・天神祭などの祭礼、万博・国体などのイベント、漁船の進水式や五月節句となれば 印染の世界である。祭を彩る印ばんてん・手ぬぐい・ゆかた(浴衣)、イベント会場の寡囲気を盛り上げる万国旗や横断幕、紺碧の空に映える極彩色の大漁旗・五月のぼり(幟)などは、それぞれのデザインや色彩に工夫をこらした印染業者の作品である。
 印染は、“シルシゾメ”または“インセン”と読み、旗・幕・のぼり・印ばんてん・ゆかた・ 手ぬぐい・風呂敷・ふくさ・のれんなどに、固有の名称文字・紋章・記号(マーク)などを染め付ける染色をさす語として用いられている。
 しかし、この“印染”なる語を、わが国の文献に見出すことはむずかしい。印・標・徴などの文字が示す目じるし・紋章・記号などの意味と、染の文字が示す染色技術の意味を組み合わせた江戸時代からの造語であるらしい。

 一方、漢字の生まれた国である中国では、この“印染”なる語がわが国よりも一般的な言葉として用いられているのである。たとえば、中国の美術大学には印染科”なる名称の学科をもつ学校があり、染色工芸の展示場の説明文の中などにも印染云々の文字がよく見られるのである。中国で用いられているこの“印染“という語は、わが国で用いられている印染とは少し異なった意味の言葉として用いられている。すなわち、【中国語の“印染”は、二つの概念を意味しているという。“印”は図案・図柄をデザインすること、“染”は色を染めることであり、 “印花染色”の四字成句の“印”と“染”をとったものである。なお“花”は模様・図案のこと であり、“染色”は文字どおり色を染めることである。古来中国では、更紗のことを“印花布” とよんでいるが、この概念を理解すれば、改めて頷けるものがあるのではなかろうか。

 わが国で最初に“印染”の語を用いた人は、中国語の“印染”の意味を知り、わが国における上記のような染色の呼称としてふさわしいものと考えたのかも知れない。  実際に印染の要素は、永い伝統の中で育まれ新しい技術の進歩の中で洗練された、文字や図案のデザインカと優れた染色技術にある。大規模な量産態勢の工場に求めることのできない工芸的な香りの高い製品の生産こそ、われわれ印染業者が目ざすべき目標といえよう。

 現在のわが国には、数百を数える印染業者がある。そして、その印染業者の多くは、昔からの紺屋を前身としている。近代工業発展の波の中で、多数の紺屋がその規模・形態を変え、工場街に吸収されていったが、ひとり印染業者だけが昔ながらの姿を守っている感がある。このことは、少量多品種の染色を小まわりを利かせてこなしていくのには、昔からの家内企業的な 態勢が適していることを示してもいるが、同時に、印染の仕事の内容が多岐にわたり、そのい ずれの分野においても熟練した技術を要求されることも示している。すなわち、伝承による技能、正確な染色技術、優れたデザインカといった総合的な力を育成していくためには、父子相伝、弟子入り・のれん分けの時代からの職人の心が必要なのではなかろうか。 城下町には、必ず紺屋町とか染師町といった名の町がある。当時これらの町で仕事をしていた紺屋は、その国の文化の担い手であった。現在も、印染業者は、伝統的な日本の文化の担い 手の一人であるが、同時に新しい日本の色彩文化の創造者の一人でもある。 日本の印染”の次代を担う青年のために……との願いをこめて。

全染研技術顧問    佐 藤 弘 幸

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